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関西生コン

瀬戸弘幸氏が戦った「関西生コン」のその後
探査報道より

産業労働組合「関生支部」を警察・検察が大弾圧/検察「どんどん削っていく」/大阪高裁では逆転無罪「憲法28条で保障された正当な行為」
2023年03月07日23時00分 中川七海、渡辺周

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警察と検察が一体となって、労働組合を弾圧している。

弾圧されているのは、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(関生支部)だ。関西で生コンを運ぶミキサー車の運転手らでつくる労組で、幹部と組合員が次々に逮捕されている。2018年からの逮捕者数は、延べ89人に上る。検察の取り調べでは組合の運動を「どんどん削っていく」と脅した。

2023年3月2日には大津地裁で、組合トップの湯川裕司委員長に対して実刑4年の判決が下った。一連の弾圧により、1300人いた組合員は600人にまで減った。

関生支部は、給料アップや休日の取得など組合員たちの暮らしを豊かにしてきた。憲法で認められた労働組合の権利に基づいて活動しただけである。

なぜ、警察と検察は躍起になって関生支部を弾圧するのか。



滋賀・大津地方裁判所=2023年3月2日、中川七海撮影

「それでも法曹か ! 」
2023年3月2日午後1時15分、滋賀・大津地裁。

この日は、関生支部の湯川裕司委員長らに判決が下る日だ。傍聴席は、労組の関係者や、生コン業者、マスコミの記者ら約70人でいっぱいになった。

畑山靖裁判長は、判決の言い渡しを後回しにして、裁判所として認定した事実から述べ始めた。ようやく主文を読み上げたのは、2時間後だ。

「被告人、湯川裕司を懲役4年に処する」

実刑判決に、傍聴席がどよめいた。他の組合幹部ら5人も執行猶予つきで、懲役1年〜3年の判決だった。生コン業者や建設会社に対し、「工事現場において軽微な不備を指摘する活動」を繰り返したことなどが、業務の妨害や脅迫にあたると認定した。

だが、関生支部にとっては工事現場での不備を指摘することは重要だ。些細なミスであっても積み重なれば大事故につながることがあるからだ。これは労働災害を防ぐために、米国のハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが提唱した「ハインリッヒの法則」として知られる。この法則によると、1件の重大事故に対して29件の軽微な事故と300件の異常がある。働く人の安全を守る労働組合としては、たとえ裁判所が「軽微な不備」として片付けても、現場で改善を求める活動は必要だ。

実刑判決が下っても、湯川委員長はまっすぐ前を見て表情を変えない。職員に連れられ、法廷を後にした。

傍聴席から、畑山裁判長に向かって叫ぶ人たちもいた。

「それでも法曹か! 」「憲法28条で保障された行動やないか! 」「裁判官やめろ! 」

畑山裁判長は退廷を命じることもなく、沈黙していた。

女性組合員の下着棚を物色した警察官
関生支部の組合員、松尾聖子さんはこの日の裁判を傍聴していた。判決後、涙をこらえながら悔しがった。

「労組の活動してただけやん。なんで、警察と検察の言う通りに有罪になるねん」

松尾さんは、今から24年前の1999年2月、生コンのミキサー車の運転手として働き始めた。シングルマザーで、1歳半の娘と、5歳になる双子の娘の、3人の子どもを育てていた。彼女自身は26歳だった。

「子どもを育てるために仕事を探しててんけど、幼い子どもがおったらなかなか採用されんかった。性格的に、水商売もできへんし。そんな時に友人に紹介してもらったのが、ミキサー車の運転手やったんです」

関生支部には、しばらくして加入した。労働組合について何も知らなかった松尾さんだが、憲法や法律を一から学び労働者の権利の重要性を知った。京都と滋賀にまたがる、関生支部の京津ブロックで書記長にも就任した。

労組の働きかけで給料は上がり、2007年には日雇いから正社員になることができた。

ところが2018年、組合への弾圧が始まった。警察は、組合員が労働条件の是正を求めて行う交渉やビラ配り、ストライキを恐喝未遂や威力業務妨害とみなし、逮捕し始めたのだ。

2019年4月19日朝6時前、松尾さんの自宅のインターホンが鳴った。警察官6人が突然やってきた。

「私と同じ関生支部の組合員やった義兄が逮捕され、うちまで捜査対象になったんです。男性の警察官がズカズカと家に入ってきました」

警察官はまず、玄関に置いてあったゴミ袋を開け、中を調べはじめた。クローゼットから風呂場の収納まで、家の中すべてを捜索した。

警察官は、松尾さんの下着の入った棚の引き出しまでガッと開けた。松尾さんは「やめてください、そこに何があるって言うんですか」と抗議した。だが、警察官は聞く耳をもたない。中に手を入れて物色した。

松尾さんをはじめ、多くの組合員が同じような目に遭った。弾圧を恐れ、約700人が組合を去った。

だが、松尾さんは組合を辞めない。

「労働組合の活動は、労働者が声をあげる手段ですよね。警察や検察がおかしくても、私は泣き寝入りはしたくない」



松尾聖子さん=2023年3月2日、中川七海撮影

「企業内労働組合」≠「産業労働組合」
なぜ、関生支部が標的にされるのか。

それは、関生支部が日本では稀な「産業労働組合」だからだ。

日本にある労働組合は、ほとんどが「企業内労働組合」だ。主に大企業の中にあり、その企業に入社した際に加入する。経営側に求めるのは、自社の社員の給与アップや福利厚生。業界全体のことは考えない。

しかも企業内労働組合の幹部は、任期が終われば再び社内の人事システムに組み込まれる。自分の出世を気にして経営側と馴れ合うことがしばしばだ。企業内労働組合が経営側とまともに闘うことはほとんどない。会社にとって都合のよい、形だけの労働組合なのだ。

これに対して、関生支部のような産業労働組合は根本的に仕組みが違う。所属する会社の垣根を超えて、同業の労働者たちが個人の資格で加盟する。同じ業種に携わる労働者全体の待遇改善のために、組合の執行部は経営側と闘う。

労働者の立場が経営側よりも弱いという前提があるからこそ、労働者は団結する権利が認められている。そう考えると、同じ業界の労働者が連帯して経営側に対抗できる産業労働組合こそが、本来の労働組合だといえる。

「資本主義の根幹にかかわる」関生支部
関生支部は1965年、183人の組合員で結成された。生コンを運ぶミキサー車の運転手や、重機のオペレーターらが加入する全国組織「全日本建設運輸連帯労働組合」の支部として活動してきた。

1973年からのオイルショックで業界内の倒産や解雇が多発した際には、企業との間で労働協約を締結し、労働者たちの権利を守った。賃金アップや、非正規労働者の正社員化も実現してきた。

1981年には、3千人の組合員からなる産業労働組合に成長した。

だが組織の拡大に伴い、経営側の危機感は募る。

三菱鉱業セメント社長などを歴任し、1979年〜1987年には日経連(現・経団連)の会長を務めた大槻文平氏は、関生支部の活動について次のように語っている。

「箱根の山を越えさせない」

「資本主義の根幹にかかわる」

大槻会長の日経連での任期と時期を同じくして、捜査当局による関生支部への弾圧が始まる。1980年〜1983年にかけ、19件の活動で幹部らが摘発された。

非正規労働者が4割の国で
その後も弾圧は続く。2005年には大阪府警が当時の武建一委員長ら関生支部の幹部7人を逮捕した。

そして2018年から始まった今回の弾圧。逮捕者数は延べ89人に上り、湯川委員長には大津地裁で実刑判決が下された。関生支部が発足して以来、最大規模だ。関西一円の警察が一斉に捜査に乗り出した。

その本気度は、検察の取り調べにも表れている。

2018年8月9日、多田尚史副検事(現在は検事)は組合員への取り調べでこう述べた。「連帯」というのは、関生支部のことを指す。

「私は一人でやってるわけじゃない。警察と検察官は何人もいるからね」

「連帯をきちっと削ってくださいという話もある。当然やりますよ。これからどんどん削っていきますよ」

同年11月〜12月にかけては、横麻由子検事が取り調べを通じて組合からの脱退を迫った。

「連帯の労組員を続ける気持ちは変わらないんでしょうか。今後も同じ活動を続けていたら、同じことになる。同じ状況になっても続けていく意味はあるんですか」

なぜ今、最大の弾圧なのか。

私は産業労働組合への政治・経済権力の警戒感がかつてなく高まっているからではないかと考える。

背景には非正規労働者が増え、給与も上がらない日本の経済状況がある。

2022年の非正規労働者は2101万人。労働者全体の4割近くだ。1990年の非正規労働者は881万人だったから、約30年で約2.4倍に増えたことになる。

年間給与も1990年は平均463万円だったが、2018年は433万円に下がっている。

この状況では、労働者が産業労働組合で活動するようになる可能性は高まる。関生支部への弾圧は、そうした動きを牽制するための「見せしめ」ではないだろうか。

誰の指示なのか
だがこうした警察と検察による弾圧に、待ったをかける裁判所が出てきた。大阪高裁である。

2023年3月6日、大阪高裁は、関生支部の武谷新吾・書記次長ら3人に無罪を言い渡したのだ。一審の和歌山地裁では、威力業務妨害と強要未遂で有罪だった。

大阪高裁の和田真裁判長は判決の中で次のように述べている。

「産業別労働組合である関生支部は、業界企業の経営者・使用者あるいはその団体と、労働関係上の当事者に当たるというべきだから、憲法28 条の団結権等の保障を受け、これを守るための正当な行為は、違法性が阻却される」

大阪高裁は2021年12月にも、京都地裁で有罪判決が下った関生支部の組合員に逆転無罪を出している。

代理人として、国を相手取って訴訟を起こしている弁護士たちもいる。海渡雄一氏、太田健義氏、萩尾健太氏、木下徹郎氏、小川隆太郎氏だ。2018年以降の関生支部の組合員たちの逮捕や起訴を「ありとあらゆる不当な刑事訴追が繰り広げられている」と主張している。

Tansaも、捜査当局による関生支部組合員の逮捕・起訴は、労働者運動への弾圧であると捉える。今回の弾圧が誰の意思と指示により行われているのか、その中枢を特定するため取材を続ける。

これは関生支部だけの問題ではない。非正規労働者が増え、賃金が下がり、生活が苦しくなるこの国で生きる全ての人々にとっての問題である。

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